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札幌高等裁判所 昭和30年(ネ)257号 判決

判  決

東京都中央区日本橋室町二丁目一番地一

控訴人

三井鉱山株式会社

右代表者代表取締役

栗木幹

右訴訟代理人弁護士

斉藤忠雄

岩沢誠

鎌田英次

松崎正躬

美唄市南唄町三井下三条三丁目右仲一

被控訴人

浜田鉄蔵

右訴訟代理人弁護土

杉之原舜一

右当事者間の昭和三〇年(ネ)第二五七号家屋明渡請求および解雇無効確認請求反訴控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の家屋を明渡せ。

被控訴人の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

控訴代理人は、主文第一乃至第四項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。原判決主文第二項を次のとおり変更する。被控訴人と控訴人との間に昭和一七年三月三〇日締結された被控訴人を鉱員として勤務することを目的とする期間の定めのない雇傭契約関係の存在することを確認する。」との判決を求めた。

(控訴人の本訴請求原因事実の要旨)

一、1、控訴人は、東京都に本店を置き、美唄市にその美唄鉱業所を設けて石炭の採掘販売を営む会社であるが、その所有にかかる別紙目録記載の家屋を、昭和一七年三月三〇日、右鉱業所との間で、右同日、期間を定めず雇傭契約を結んだ従業員である被控訴人に対し、いわゆる社宅として、使用料は無償で貸与し、被控訴人はその頃からこれを占有使用し、その後昭和二二年四月、控訴人が別紙記載のとおりの社宅貸与準則を定め、従業員の社宅使用に関してこれを適用したので、被控訴人の右家屋使用関係にもこれが当然適用された結果、その使用契約関係は、使用料は無償(但し、修理費の一部負担金の趣旨で収めるその頃の月額三〇乃至八〇銭、電灯料の趣旨で収めるその頃の月額二七乃至四〇銭は、被控訴人負担)、借主は、家屋の改造、増築をしない、改造・増築をしたときは、貸主たる控訴人において、この貸借契約を解除することができる、また借主は退職等のときはこの家屋を明渡すという約束となつた。

2、ところが、控訴人は、昭和二五年一〇月二一日、被控訴人に対し解雇の意志表示をなすとともに本件家屋の返還を請求したので、前記社宅貸与準則第五項第5号に基いて、本件家屋使用貸借契的は同日限り終了したところ、控訴人はなお明渡を一箇月間猶予したので、被控訴人は昭和二五年一一月二一日、右家屋を控訴人に対し返還しなければならないことになつた。

二、そうして、被控訴人に対する本件解雇は、次の理由から有効である。

1、連合国最高司令官の昭和二五年五月三日附声明、内閣総理大臣に対する昭和二五年六月六日附、同年六月二六日附、同年七月一八日附各書簡ならびにこれに基く同年九月頃連合国最高司令部労働課長の控訴人に対する指示があつて、共産党員およびその同調者を重要産業より排除すべしとする占領政策が明示せられたので、控訴人は共産党員等の従来の集団的組織的な企業阻害の企図に対する防衛措置として、訴外全国三井炭鉱労働組合会(被控訴人を組合員とする訴外三井美唄炭鉱労働組合をその構成分子とし、かつその下部組織とする)との間で、昭和二五年一〇月一五日、事業の正常な運営を阻害する共産主義者またはこれに準ずる行動ある者を解雇する旨を定めたいわゆる整理基準等に関する協定を行つた。

しかして、被控訴人には、次のように右基準に具体的に該当する所為があつたので、控訴人は右協定に基いて、所定の手続を経て、被控訴人を整理基準に該当する者として解雇したのであるから、本件解雇は有効である。

すなわち、被控訴人は、昭和二四年頃より共産主義的行動が顕著となり、昭和二五年一月一日以降、日本共産党に入党した共産主義者でありまた次のとおり控訴人の事業の正常な運営を阻害する行動があつた。

(一)(上司の指示に服しないこと)被控訴人は、昭和二三年末頃から、控訴人の資材課検収の業務に従つていたが、その上司である訴外奈良某・田中某・小野某等の業務上の指示を無視したり、批判を加え、あるいは個人攻撃をし、その排斥運動を主謀したりした。

(二)(職場離脱)被控訴人は、昭和二一年初め頃から昭和二五年三月までの間、その執務時間中、無断でその職場を離れることが多かつた。

(三)(職制無視)被控訴人は、昭和二二年頃、その担当職場である検収見張所を遠く離れた資材課事業用品係長と机を並べて、右係の他の日常業務の全般に関してまでも被控訴人との協議方を要求してやまなかつた。

(四)(下請業者従業員煽動したこと)被控訴人は、昭和二四年四月頃、控訴人資材課工場に稼働してその業務遂行上密接な関係にある下請業者訴外三好組の従業員に対して、休憩時間外にわたる職場大会、時間外荷卸し拒否あるいは請負金額の増額要求等の争議を指導し、また昭和二五年三月頃、三好組労働組合執行委員会に出席して、三好組の解散および同組従業員の控訴人直轄員への切替えを煽動した。

(五)(共産党の業務阻害的宣伝煽動活動)被控訴人は、昭和二四年頃から、共産主義的色彩の言動をもつて、左記のように、組織的に控訴人の業務を阻害しようとする行動をとつた。

(1) (職場不安の醸成)被控訴人は、昭和二四年頃から、その職場において、共産党革命の日の近いことを宣伝し、その暁には、現幹部あるいはその協力者は、粛清、その他不利益な扱いを受ける趣旨の脅迫的な言葉を公言して、職場不安を醸成した。

(2) (事実をゆがめた宣伝)被控訴人は、昭和二五年七月頃起つた控訴人従業員訴外柴田寛二の事故死について、控訴人において柴田を豚のように使つて殺したものと強く非難し、その外ことごとに事実をゆがめて宣伝し、控訴人と従業員間の感情的対立を煽ることに努めていた。

(3) (業務阻害的細胞活動)被控訴人は、昭和二五年九月二〇日、美唄市有為部落西宝寺において開催された日共美唄地区委員会に出席した外、被控訴人宅における昭和二五年六月二一日・九月二日・一〇月五日・一〇月六日・一〇月一六日・一〇月二〇日の各細胞会議に出席し、控訴人の正常な業務の運営を阻害する同会議の決定に参画した。

(4) (伝単による阻害活動)被控訴人は、その頃、共産党三井美唄細胞が無根の事実を宣伝して控訴人の業務を非難し、職場規律の混乱を企図して、その企業の運営の阻害を目的とする各種伝単を作成するに当り、同細胞の主要構成員としてその作成に関与し、また右伝単類を、控訴人の施設の内外において配布した。

2、仮りに整理基準が無効とせられるとしても、本件解雇は次の理由から、有効というべきである。

すなわち、連合国最高司令官の前記声明・各書簡等により、共産主義者およびその同調者を重要産業より排除すべしとする占領政策が明示せられた(昭和三五年四月一八日最高裁判所決定参照)が、右書簡等は、連合国がわが国を管理していた昭和二五年当時には、日本国憲法その他の国内法を超えて、これに優先する効力をもつ「共産主義者およびその同調者を重要産業より排除すべし」とする法的規範が設定されていたものであつた。もとよりこの法形式は、直接にわが国民が拘束するものであるから、当時通常のいわゆる間接管理方式からみると異例に属していたが、最高司令官の発した右書簡等の法的性格は、これよつて左右されるものではない。従つて、重要産業たる石炭業を営む控訴人が、共産主義者である被控訴人を企業内より排除した行為は、右書簡等に照らして有効である。

3、仮りに、本件解雇が無効であるとしても、控訴人と被控訴人との間には、昭和二六年九月七日、その雇傭関係を終了させる合意が成立した。

すなわち、控訴人は、昭和二五年一二月六日、札幌法務局岩見沢支局に、さきに、被控訴人から受領を拒まれた予告手当金および退職手当金合計四〇、三三四円五〇銭(税引)を、受領して控訴人のなした解雇の意思表示に異議なく退職して、右解雇に同意することを求める趣旨の下に、右金員を供託したところ、被控訴人は右の趣旨を了承したうえ、昭和二六年九月七日、右退職金等を受領したものであるから、被控訴人は控訴人の右申込を暗黙に承諾し、ここに右趣旨の合意が成立したわけである。

三、従つて、いずれにしろ、本件雇傭関係は既に終了したものである。よつて控訴人は、被控訴人に対し、本件家屋の明渡を求めるため、本訴に及んだ。

(反訴請求原因事実に対する控訴人の答弁要旨)

本件解雇の意思表示が、なんら正当の事由なく無効であるとの点を除いて、その余の反訴訟請求原因事実は認める。

(本訴請求原因事実に対する被控訴人の答弁要旨)

一、1、請求原因事実一の1のうち、借主が改造、増築をしたときは、控訴人においてこの貸借契約を解除することができる、また退職等のときはこの家屋を明渡すという約であつた点を否認し、その余の事実を認める。

2、請求原因事実一のこのうち、控訴人が、昭和二五年一〇月一一日、被控訴人に対し解雇する旨の意志表示をしたことは認めるがその余の事実を否認する。

被控訴人が本件家屋を使用占有していることは、控訴人との間の一種の賃貸借契約に基くものであつて、借家法の適用があるところ控訴人が有効に解約申入をなすには、正当の事由がなければならないのに、それがないから、被控訴人において本件家屋を明渡すべき義務はない。

3、請求原因事実二の1の事実のうち、控訴人が訴外全国三井炭鉱労働組合連合会(被控訴人を組合員とする訴外三井美唄炭鉱労働組合をその構成分子とし、かつその下部組織とする)との間で、昭和二五年一〇月一五日、事業の正常な運営を阻害する共産主義者またはこれに準じる行動ある者を解雇する旨を定めたいいわゆる整理基準等に関する協定を行つたこと、控訴人が右協定に基いて、所定の手続を経て、被控訴人を整理基準に該当する者として解雇する旨の意志表示をしたこと、被控訴人が、昭和二五年一月一日以降、日本共産党に入党した共産主義者であつたこと、また昭和二三年末頃から控訴人の資材課検収の業務に従つていたことは認めるが、控訴人が整理基準を協定するに至つた経緯に知らない、その余の事実および二の2の事実を否認する。

4、請求原因事実二の3の事実のうち、被控訴人が控訴人主張の日、その主張の金員を受領したことは認めるが、その余の事実を否認する。右金員は、控訴人が給与を支給しないでやむなく当座の生活費に充当するため受領したものである。

二、被控訴人に対する本件解雇は、次のとおり無効なものである。

1、請求原因事実二の1の点について。

(一)本件解雇は、控訴人主張の整理基準によつてなされたものでなく、被控訴人が共産主義者であるという理由のみでなされたものである。そうしてこれは、信条により労働条件について差別的取扱をなすもので、憲法第一四条、労働基準法第三条に違反し無効である。

控訴人が本件解雇に当つて、右整理基準によつてなさず、これを単に名目だけに偽装的に掲げたに過ぎないことは、次の事情からも明らかである。

(1)日本共産党員を石炭産業から排除すべきだとする指示が、当時の連合国総司令部員および労働大臣からなされていること。

(2)本件解雇についての団体交渉のとき、日本共産党員という外、なんら具体的な基準該当事由が論ぜられていないこと。

(3)本件解雇の実践的基準によれば、日本共産党届出党員ということだけで解雇の対象とされていること。

(4)当時の連合国最高司令官の声明、書簡によつて、共産主義者とその同調者とを解雇したとする控訴人の主張自体。

(二)仮りに、控訴人主張の整理基準に従つたものとしても、右整理基準は次のとおり違法であるから、本件解雇は無効である。

(1)(憲法第一四条、労働基準法第三条違反)本件整理基準は、控訴人の事業の正常な運営を阻害するすべての者を解雇するというのではない。

こうした者のうち、特に共産主義者またはこれに準ずる行動ある者のみに限つている。

従つて、右基準は、信条によつて経済的または社会的関係において差別的取扱をなすものであつて、憲法第一四条、労働基準法第三条に違反する。

(2)(憲法第二八条、労働組合法第七条違反)本件整理基準は、事業の正常な運営を阻害する行為のある者を解雇の対象としている。しかし、そうした行為であつても、労働関係の当事者がその主張を貫徹することを目的として行う行為であれば、労働関係調整法第七条にいう争議行為であり、それは原則として憲法第二八条によつて認められる勤労者の権利である。しかも、労働組合法第七条第一号は、労働者が労働組合の正当な行為、例えば正当な争議行為をした故をもつてその労働者を使用者が解雇し得ない旨を規定している。従つて、事業の正常な運営を阻害する行為のある者を無差別的に解雇の対象とする右基準は憲法第二八条、労働組合法第七条第一号に違反する。

(三)仮りに、右整理基準が有効であるとしても、被控訴人には、本件整理基準に該当する具体的な所為がない。

なお仮りに、請求原因事実二の1の(一)乃至(五)に掲げる具体的行動が被控訴人によつてなされたものとしても、いずれも労働者の団結権と団体行動権に基くものであつて、たとたこれによつて控訴人の業務の正常な運営を阻害するものとしても、これを理由として被控訴人を解雇することは許されない。

2、請求原因事実二の2の点について。

控訴人主張の連合国最高司令官の声明は単なる声明であつて、法規範ではなく、同書簡もいわゆる間接管理方式による内閣総理大臣に対する指令に過ぎない。また仮りに右書簡等が法規範であるとしても、本件解雇は右規範に基いたものでないから無効である。右規範に基く解雇の意志表示は被控訴人に対して未だかつてなされた事実もないのである。

(被控訴人の反訴請求原因事実の要旨)

被控訴人は、昭和一七年三月三〇日、控訴人美唄鉱業所の鉱員として、期間の定めなく控訴人の従業員に雇われたものであるが、控訴人は、昭和二五年一〇月二一日、なんら正当な理由もないのに、被控訴人が控訴人主張の整理基準に該当するから、その主張する整理基準等に関する協定に従つたと称して解雇する旨の意志表示をなし、以来、被控訴人の就業を拒否し、かつ本訴により被控訴人の居住する社宅の明渡を要求し、あまつさえ、賃金その他これに準ずる手当も支給しない。

しかしながら、右解雇の意志表示は、前記のとおり無効であるから、被控訴人は控訴人に対し、被控訴人が前記雇傭契約に基くその従業員であることの確認を求めるために反訴に反んだ。

(立証)(省略)

理由

本訴および反訴につき判断する。

一、控訴人が、東京都に本店を置き、美唄市にその美唄鉱業所を設けて石炭の採掘販売を営む会社であり、その所有にかかる別紙目録記載の家屋を昭和一七年三月三〇日、右鉱業所との間で、右同日、期間を定めずに雇傭契約を結んだ従業員である被控訴人に対し、いわゆる社宅として、使用料は無償で貸与し、被控訴人はその頃から、これを占有使用しているところ、その後昭和二二年四月、控訴人が別紙記載のとおりの社宅貸与準則を定め、従業員の社宅使用に関してこれを適用したので、被控訴人の右家屋使用関係にもこれが当然適用された結果、その使用契約関係は、使用料は無償(但し、修理費の一部負担金の趣旨で収めるこの頃の月額三〇乃至八〇銭、電灯料の趣旨で収めるその頃の月額二七乃至四〇銭は、被控訴人負担)、借主は、家屋の改造、増築をしないという約であつたことは、当事者間に争いがない。

二、そこでまず本件家屋の貸借関係について判断する。

(証拠省略)を総合すれば、本件家屋は、控訴人の福利施設の一環として、会社の本採用の従業員のうち、成年男子で妻子または扶養家族のあるものについて、社宅として従業員である間これを無償で貸与し、家屋の維持費にも不足の前示金頭を畳修理料あるいは電灯料名義で借主から徴収しており、借主が退職または死亡によつて、貸与資格を失つたときは、特別の事情のない限り、その家族もともに即時家屋を返還るす約であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上認定の事実と前示争いのない事実とからすれば、本件家屋の使用契約関係は、借主から支払われる金員が家屋使用の対価として支払われるものとは到底認められない額でもあるしするので、家屋の賃貸借契約関係と認めることはできず、従業員が原則としてその在職期間中占有居住することのできる使用貸借契約関係とみるほかはない。

三、次に被控訴人に対する解雇の効力について判断する。

(証拠省略)ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人は、連合国最高司令官の昭和二五年五月三日附声明、内閣総理大臣に対する昭和二五年六月六日附、同年六月七日附、同年六月二六日附、同年七月一八日附各書簡の精神と意図に徴し、かつ同年九月頃総司令部経済科学局労働課長から鉱業経営者の組織体である石炭連盟の代表者数名に対してなされた危険分子追放の趣旨の示唆勧告に照らし、日本経済ひいては社会公共の福祉に重大な影響をもつ石炭鉱業企業内より、日本の安定に対する公然たる破壊分子ならびにその同調者を排除するため、共産党員およびその同調者がこれに当るものとし、現に被控訴人(日本共産党員であつたことは、当事者間に争いがない)がこれに該当するものとして、右声明、書簡等に基く防衛措置として、被控訴人を解雇する旨の意志表示をしたことが認められる。(もつとも、控訴人が訴外全国三井炭鉱労働組合連合会((被控訴人を組合員とする訴外三井美唄炭鉱労働組合をその構成分子とし、かつその下部組織とする))との間で、昭和二五年一〇月一五日、事業の正常な運営を阻害する共産主義者またはこれに準ずる行動ある者を解雇する旨を定めたいわゆる整理基準等に関する協定を行つて、次いで控訴人が右協定に基いて所定の手続を経て、被控訴人を右整理基準に該当する者として、昭和二五年一〇月二一日、解雇の意思表示をしたことは、当事者間に争いないところであるが、前認定の経緯で控訴人がその目的のために整理基準協定を行い、かつ解雇の意志表示をなしたものであるから、前認定を妨げるものではない。)右認定を左右するに足る証拠はない。

そうして、連合国最高司令官の前示声明、書簡等が、公共的報道機関についてのみならず、その他の重要産業についてもまた共産主義者またはその支持者を排除すべきことを要請した指示であり、日本の国家機関および国民が連合国最高司令官の発する一切の命令指示に誠実かつ迅速に服従する義務を有し、従つて、日本の法令は右の指示に抵触する限度においてその適用を排除されるから、連合国最高司令官の指示に基いて重要産業の経営者はその従業員を解雇することができるし、また解雇しなければならなかつたものであつて、その解雇は法律上の効力を有するものと認めなければならないことは、最高裁判所の判例とするところである。(昭和二七年四月二日、昭和三五年四月一八日各最高裁判所大法廷決定参照)。また控訴人の営む石炭の採掘、販売業が、右にいわゆる重要産業に該当することは、その事業の性質、規模等からこれを認めるほかはないから、被控訴人に対する控訴人の本件解雇の意志表示は、他の点の判断をまつまでもなく、有効と認めざるを得ないのである。

四、従つて、本件雇傭関係は昭和二五年一〇月二一日終了したところ、控訴人が昭和二五年一〇月二一日被控訴人に対して本件家屋の返還を請求したことは前示甲第六号証の一によつて明らかであるから、前認定の本件家屋についての社宅貸借契約は、右社宅貸与準則第五項第5号に基き、昭和二五年一〇月二一日限り終了したものといわなければならず、控訴人の自ら認める一箇月の明渡猶予期間を経た昭和二五年一一月二一日限り、被控訴人は控訴人に対し本件家屋を明渡す義務があるものである。

五、そこで、控訴人の被控訴人に対し本件家屋の明渡を求める本訴請求は正当としてこれを認容し、仮執行の宣言は附さないものとし、被控訴人の控訴人に対しその従業員であることの確認を求める反訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとする。

よつて民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して、主文のとをり判決する。

札幌高等裁判所第四部

裁判長裁判官 臼 居 直 道

裁判官 安久津武人

裁判官 田 中 良 二

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